INGA COPELAND
FEATURE 070

ソロとしては初となるジャパン・ツアーを目前に控えた元Hype Williamsの才女、Inga Copeland(インガ・コープランド)。2014年にセルフ・リリースされた『Because I'm Worth It.』では音数を極限に削ぎ落としつつ、ダビーな音響空間と重工なベースに憂いある儚い歌声を浮遊させ、どこか都会的な乾きと冷ややかさ、そして暗闇をまとったサウンドで各メディア/リスナーを新たな別世界へと誘って魅せたのでした。もともとメディアへの露出が少なく、その表現方法やサウンド含めてどこかミステリアスな佇まいを見せる謎めくアーティスト。これまでも彼女へのインタビューはほとんど見かけられず、今回も残念ながらインタビューの実現には至りませんでしたが、今までの軌跡を追うとともに少しでも彼女の音楽に触れるきっかけとなればと願い、動画と共に紹介したいと思います。もちろんこれらは彼女のほんの一部分であり、解明には至りません。あとは来日公演の各地にて、その目その耳で確かめるとしましょう。




HOMETOWN
London, UK

MEMBER
Alina Astrova (HYPE WILLIAMS, LOLINA)

LABEL
MELTING BOT (JP)
HYPERDUB (UK)
HIPPOS IN TANKS (US)
DE STIJL (US)

WEB
INGA COPELAND soundcloud

INTERVIEW
ELECTRONIC BEATS
THE FADER





experimental room #20



2015 11 23 MONDAY

Kiageba Kyokai

Open 17:30 / Start 18:00

Adv 3000JPY / Door 3500JPY / From Out Of Niigata 2500JPY / Under18 FREE!

live:
INGA COPELAND
SAPPHIRE SLOWS
KOUJI NAGAHASHI

dj:
LIVING ROOMS

more info: experimental rooms
本名はアリーナ・アストロバ(Alina Astrova)。ロシア出身、エストニア育ち、現在はロンドンを拠点とするアーティスト/シンガー/プロデューサー。

彼女の音楽活動の原点はベルリン出身のディーン・ブラント(Dean Blunt)とのユニット、ハイプ・ウィリアムズ(Hype Williams)。カニエ・ウエストやビヨンセのPVなどを制作してきた映像作家ハイプ・ウィリアムズとまったくの同名のプロジェクト名で、結成当初から皮肉めいたユーモアとジョークを効かせています。活動初期は正体不明の存在。ライヴでは顔を見せず、メンバーが2人の説もあれば3人の説もあり、また違う説もありとメディアを困惑させたのでした。

セルフ・リリースによる無数の限定CDR作品やHounds Of Hateとのスプリット・カセットテープなどの発表を経て、2010年にロンドンのレーベルCarnivalsから1stアルバム『Untitled』でアルバム・デビュー。意図的なのか面倒くさいからなのか、作品名も収録曲もすべてタイトルなし(笑)。


"Untitled 7"


同年に7インチ・シングル『Do Roids And Kill E'rything』を発表。この作品にはドレイクの楽曲「Over」をサンプリングどころかガッツリ使用してしまっている「Ooovrrr」を収録しており、著作権ギリギリというかアウト(笑)な作品具合で巷を騒がせることに。

"Ooovrrr"


同じく同年にウェット・ヘアやシルキュイ・デ・ジューのリリースでも知られているUSレーベルDe Stijlから早くも2ndアルバム『Find Out What Happens When People Stop Being Polite, And Start Gettin Reel』を発表。前作の流れを汲み骨抜きの脱力感、ぼやけた音像、スクリュードしたコラージュとが絶妙なブレンドぶりを見せつつ、上記シングルのカップリングにも収録されている、シャーデーの楽曲「The Sweetest Taboo」を思いっきりカットアップした名曲「The Throning」が採録されており、各メディアでも広く話題を集めました。


"The Throning"


この年の作品数は多く、その後もセルフ・リリースのCDRやカセットテープを主としたカナダのレーベルHobo Cult Recordsから『Junt / Deez Ruins You See』をリリースするなど、コンスタントな発表を続けました。 翌年の2011年にはゲームス、ジェイムス・フェラーロ、ローレル・ハローなどを発掘してきたアンダーグラウンド界の最重要レーベルであり惜しくも2015年春に終止符を打ってしまったHippos In Tanksより3rdアルバム『One Nation』を発表。

"Your Girl Smells Chung When She Wears Dior"


同年にインガ・コープランド名義としてソロ・デビュー。アムステルダムのRush Hour Recordings傘下のレーベルNo 'Label'からのリリース。緩やかなビートと彼女の歌声が全面的にフィーチャーされた、ローファイに響くシンセ・ポップな作風。

"Trample"


同じくこの年にハイプ・ウィリアムズとして、コード9の熱いラヴ・コールを受けて彼が主宰するHyperdubよりシングル・デビュー。そして翌年の2012年、さすがにハイプ・ウィリアムズご本人からクレームが来てしまったのか、名義をディーン・ブラント&インガ・コープランド(Dean Blunt & Inga Copeland)に突如変更して4枚目となるアルバム『Black Is Beautiful』を発表。全15曲。冒頭曲のみ曲名が付いており、それ以降は面倒くさいと言わんばかりに数字のみというのも何だか彼ららしい(笑)。

"5"


この年には日本では初となるHyperdubのレーベル・ショーケース出演のため、遂に待望の初来日。東京と大阪の2公演。関係者以外誰もその姿を確認できなかったというくらい(笑)真っ白なスモークと強烈なストロボでステージは完全に覆われ、とにもかくにも壮絶なライヴ・パフォーマンスだったとすこぶる高い評価を集めました(筆者は見に行けず。今なお激しく悔やまれます…)。

HYPERDUB EPISODE 1


同じ年にはUK名門レーベルHonest Jon's Recordsよりデムダイク・ステア(Demdike Stare)とのスプリット作品を発表。今作は両者による、南アフリカのダンス・ミュージック「シャンガーン・エレクトロ(Shangaan Electro)」の楽曲をリミックスするという企画盤で、深いダブ音響とエスニック・サウンドにインガ・コープランドの歌声を乗せて、鮮烈なアフロ・サウンドを披露しています。

"Hype Williams Meets Shangaan Electro (Version)"


2013年に入るとふたりによるプロジェクトは終止符を打ちます。相方であったディーン・ブラントと同様に、インガ・コープランドもソロとしての活動を本格化させていき、World MusicよりEP『Don't Look Back, That's Not Where You're Going』をリリース。切ない歌声を乗せてセンチメンタルなムードを放ちつつ、彼女らしい実験性も随所に覗かせたシンセ・ポップを提示。

"So Far, So Clean"


同年に続けて今度は、メキシコのレーベルAll Boneよりコラボレーション作品『UKMerge/Strict』を発表。お相手はハイプ・ウィリアムズの作品にも参加して影のメンバーとも言われており、また2015年2月にはPlanet Muからのリリースでも話題となったUKの新怪人ジョンT・ガスト(John T. Gast)。ときおり鋭い電子音を挿入しながらスカスカでボコボコなビートとインガ・コープランドのヴォーカリゼーションとが掛け合わされた好盤で彼らの相性の素晴らしさを改めて証明してくれました。

"Strict"


翌年の2014年5月。フル・アルバムを目前に控えて7インチ・シングル『Smitten』をセルフ・リリース。世界で数店舗のみの取り扱い・販売で、即完売となりました。

"Smitten"


そして!満を持して!世界が待ち望んでいたフル・アルバム『Because I'm Worth It.』が自主制作でリリース。上記の先行シングルのカップリング曲の名前がアルバム・タイトルに冠されているものの、あえて(?)なのかシングル曲は一切収録されておらず。今作のハイライトのひとつでもある「Advice To Young Girls」ではUKのアクトレス(Actress)をフィーチャー。空間を意識させるダビーな音響とビートの設計に、タイトル通り彼女による”少女達へのアドヴァイス”とされる語りかけとが絶妙なバランスで配置された逸品。またこの曲で彼とスタジオを共にした際にできあがったアンビエントなキーボードのパートは、アルバムのラストを飾る「L'oreal」の中で用いられているそうです。また同年9月にはアートワークを一新して、東京のMelting Botより銀盤化され、めでたく日本デビューも飾りました。

"Advice To Young Girls"


翌年の2015年5月。突如、新名義ロリーナ(Lolina)として3曲入CD作品『Relaxin' With Lolina』を発表(同年10月には同内容でヴァイナル化)。異型のダンスホール、重力を抜かれたコールドなビート、無愛想な鍵盤、そして気の抜けたロリ声の歌唱によるローファイ・ポップでまた新たな可能性を開花させて魅せてくれたのでした。ミックスとマスタリングは近作でもお馴染みのAmir Shoatが今回もバッチリ担当。

"Lolina"


そしてそして!いよいよソロとしては初となるジャパン・ツアーがまもなく開催されます。東京、大阪、そしてまさかの新潟の全3公演。最新のロリーナ路線なのか、はたまたインガ・コープランド名義に忠実なセットなのか、どのようなライヴ・パフォーマンスになるかは当日まで憶測の域を脱せられませんが、必ずしや体感的なライヴ体験ができること必至です。是非ともこの機会を見逃しなく!!!



INGA COPELAND JAPAN TOUR 2015
“私にはその価値があるから”

11 20 - Osaka - Socore Factory
11 22 - Tokyo - WWW
11 23 - Niigata - Kiageba Kyokai



WRITTEN in November 2015
TEXT by Masato Hoshino