YUI ONODERA
FEATURE 074

東京を拠点に世界的な活動を行うサウンド・デザイナー、Yui Onodera(小野寺 唯)。アメリカのレーベルand/OARからのアルバム・デビューを飾り、国内外の 様々なアーティストとの共作の発表や、建築家、彫刻家、ダンサー、ファッショ ン・デザイナーなど非音楽との分野を越えたコラボレーションも精力的に行い、 広いフィールドで高い評価を集めています。2015年にはフランス屈指のサウンド アート・レーベルBaskaruと東京の新ダブ・アンビエント・レーベルArctic Tone からそれぞれ異なるコンセプトのソロ・アルバムを発表、そしてマリインスキー 劇場管弦楽団のヴァディム・ボンダレンコとのコラボ・アルバムでは電子音響に よるポスト・クラシカルへの接近を見せるなど、ますますその動向に目が離せな い存在です。そんな彼がノルウェーから初来日するPjuskとの共演により、今回 初めて新潟の地を踏みます。また新たな電子音響が生まれるであろうその瞬間に 胸を躍らせつつ、これまでのことから最新作のことまで伺ってみました。




HOMETOWN
Tokyo, JP

MEMBER
Yui Onodera (RESHAFT)

LABEL
CRITICAL PATH (JP)
ARCTIC TONE (JP)
TWO ACORNS (JP)
WHEREABOUTS (JP)
AND/OAR (US)
BASKARU (FR)
SEREIN (UK)

WEB
YUI ONODERA
YUI ONODERA soundcloud

VIDEO

Nubian Clouds Over Saskia (as The Beautiful Schizophonic and Yui Onodera)


Live at SuperDeluxe, Tokyo (as RESHAFT)


Mon





experimental room #21



2016 04 02 SATURDAY

Kiageba Kyokai

Open 17:30 / Start 18:00

Adv 3500JPY / Door 4000JPY / From Out Of Niigata 3000JPY / Under18 FREE!

live:
PJUSK + YUI ONODERA
AOKI,hayato と haruka nakamura

dj:
IXALODS

more info: experimental rooms
まず最初に自己紹介をお願いします。

小野寺唯です。CRITICAL PATHで作曲/サウンド・デザインをしています。オリ ジナル・ワークとしてサウンド・アート、電子音楽などと呼ばれている分野で作 品を発表したり、エレクトロニック・ミュージックにフォーカスしたデュオ・ユ ニットRESHAFTとしても作品を発表したりしています。

いつどのようにして、現在のような音楽の制作をスタートさせたのでしょう か?

10代の頃に日本のフリー・ジャズのギタリストとして主要人物の一人である高柳 昌行さんが教えていらっしゃったという某音楽学校でギター専攻として入学しま した。ただそこで指導される音楽の在り方(芸能的な在り方)にそれほど興味を 持てず、ちょうど個人でコンピューターを使用した作曲、特にMIDIではなくオー ディオ・ファイルをかなり自由に扱えるようになってきた頃だったのでこれに興 味を惹かれて、ギターの可能性を探りつつ独学でコンピューターを使用した作曲 へ没入してゆきました。同時にデレク・ベイリーや大友良英、ジョン・ケージや シュトックハウゼンなどフリー・ジャズや現代音楽、電子音楽などの音楽の新た な可能性や一面を拡張するようなものに興味の対象が移行してゆきました。

2015年にはフランスのレーベルBaskaruより最新ソロ・アルバム『Semi Lattice』が発表されました。今作はどのように制作されたのでしょうか?コン セプトについてもありましたら教えて下さい。

2010年前後に正直ところ音楽に飽きてしまって、以前から興味を持っていた「建 築」分野に飛び込むことを決めました。この分野ではまったくの素人でしたので 図面書きの仕事をしながら建築学校へ通い、最終的に音を鳴らすための音響空間 を設計する「建築音響設計」という仕事に就きました。建築音響設計を通じて音 の物理的な扱い方だけでなく、様々な建築家とその理論や美学を知るにつれてこ ういった音楽外の考え方や設計プロセスを音楽に導入することにとても興味を持 つようになってゆきました。前置きが長くなってしまいましたが、そういった経 緯もあって、『Semi Lattice』は都市計画家クリストファー・アレクサンダーが 唱えた都市理論である”一つの視点からツリー状に俯瞰した視点で発展するので はなく、時間の変化に応じて無数の集合体の重なり合いのように機能が重複・変 化して発展する”というセミラティス理論にインスピレーションを得て、出来る だけ(西洋的な)音楽構造をもたない、生物や都市が生成される過程に似た抽象 的な個別の要素が絡み合いながら全体像(らしきもの)を構成しているという” 状況”を音で作ってみることにしました。

これまでにCelerやThe Beautiful Schizophonicなど様々なアーティストとの コラボレーション作品を発表されています。最近ではUKのレーベルSereinからク ラリネット奏者Vadim Bondarenkoとの共作アルバム『Cloudscape』が発表されま したが、今作はどのようにして制作されたのでしょうか?

オペラ/バレエ専用の帝室劇場として「眠れる森の美女」や「白鳥の湖」が初演 されたマリインスキー劇場というのがロシアにあるのですが、そのマリインスキ ー劇場管弦楽団員のVadimからちょうど日本でオペラ公演を行うのでぜひ来て欲 しいと突然の連絡をいただきました。当時は正直オペラそのものにそこまで興味 はありませんでしたが、せっかくご招待いただいたのと一度観てみたいという好 奇心も手伝って初めて東京文化会館に足を運んだのがキッカケでした。自分が作 曲したものをただそのまま弾いてもらうというのではまったくコラボレーション の意味がないので、先に彼にレコーディングしてもらってそれらの素材を使用し て作曲してゆくことにしました。一部、フィールドレコーディングやギターを追 加している部分もありますが、多くはピアノやクラリネットの素材をオシレータ ーにコンピューターでプロセッシングしてゆくやり方で制作しています。5曲目 の「Cloudscape#5」も一聴すると電子音にしか聴こえないかもしれませんが Vadimのピアノ演奏のみを使用して作られています。

また音楽の他に、建築家、彫刻家、ダンサー、ファッション・デザイナーな ど、ジャンルの垣根を越えたコラボレーションも行われておりますが、こうした 活動についてはいかがですか?

前述のとおり飽きっぽい性格もあり(笑)、異なる分野のアーティストとの協働 にはいつも興味を持っています。音楽という限定された分野の中だけで思考され る範囲というのは非常に限られるので、出来るだけ音楽外からアイディアや手法 などインスピレーションの源を探す事が多いです。もちろん音楽家とのコラボレ ーションもこれまで自分に無かった新たな視点に気づかせてくれる刺激的な機会 となっているので何らかのかたちで他者との協働は常に行っていたいなと思いま す。ちょうど昨年末に英国ロイヤル・バレエ団の作曲を手掛けるイギリス人アー ティストのスキャナーとの協働を終えたところなので、いまは特に舞台/ダンス /バレエなどのための音楽に強い関心を持っています。時間を見つけてそのため の架空のサウンド・トラックを作ってみたり、それから5〜10秒くらいの非常に 短いサウンド・ロゴも自分にとってはとても面白く、そういうものを日々の合間 に作り貯めてアーカイブ化したりしています。

Mizkami RyutaとのユニットRESHAFTとしても活動されています。Pjuskと同時 期に同じく初来日するChraが主宰するレーベルComfortzoneより1stアルバム 『Decon』が発表されていますが、このプロジェクトのコンセプトについて教え て下さい。また最近の活動についてはいかがでしょうか?

これはより音楽的なアプローチで取り組んでいるソロとは差別化されたプロジェ クトで、様々な音楽の機能や在り方があるなかでエレクトリック・ミュージック 、とりわけクラブ・シーンへ接近したプロジェクトだと思っています。お互いに ソロでの制作も行っているので牛歩の歩みではありますが、そろそろ次のアルバ ム制作も含め新しい動きを活発化させるためのアイデアを練っているところです 。

今回の新潟でのライヴはPjuskとのコラボレーションとなりますが、彼らにつ いてはいかがですか?

Pjuskの二人とはバルセロナで開催されたオーディオ/ヴィジュアル・フェステ ィバルの『storung festival』で数年前に初めてお会いしました。僕のライヴが 終わった直後すぐに楽屋へ駆けつけてきて、ぜひ次回作に参加して欲しいとお誘 いいただき、彼らの最新アルバム『Solstov』で共演させていただきました。そ んな出会いがキッカケで彼らの音楽を熱心に聴き込むようになり様々な刺激を受 けて、自身のソロ・アルバム『sinkai』が生まれました。北国育ちだからなのか 、彼らの北欧らしい音響の質感や扱い方にとても共感出来る部分が多く感じられ ました。

今回初めての新潟になりますでしょうか?新潟の印象についてはいかがです か?

岩手県出身なので同じ雪国という印象を持っています。生まれ育った環境からの 無意識的な影響というのはかなり宿命的なものだと思っていて、Pjuskも含めひ ょっとすると様々な感受性の部分で共感出来る部分も多いのかな?と考えたりし ます。

最近のお気に入りのアーティストや作品などがありましたら教えて下さい。

去年は60〜80年代の日本の古い歌謡曲ばかり掘り下げて聴いていたのですが、最 近は中南米、特にブラジルの音楽に興味を持っています。特にLucas Santtana、 Ciceroは最近のお気に入りです。旋律やリズムはもちろんですが、個人的には日 本語や英語とも違う、歌の言葉の発音ニュアンスが興味深く、とても気に入って います。

今後の活動の予定がありましたら教えて下さい。

去年から本名名義のソロやRESHAFTとは別の音楽プロジェクトの準備に力を入れ て取り組んでいます。いまは一切コンピューターを使用せずに作曲するやり方に 興味を持っていてギターや鍵盤、その他様々なアコースティック楽器を用いてシ ンプルにテープにレコーディングしてゆくやり方で色々と実験しています。ソロ でもちょうどこのやり方で米国のサウンド・アーティスト、ステファン・ヴィテ ィエロ教授と共同を始めたところです。可能な限りの大部分をリアルタイムで再 現出来るようなものがいいなと思っていて、まだ暗中模索を繰り返している段階 ですが出来れば今年中に何らかの形で発表出来る機会を得られればと考えていま す。

それでは最後に新潟のファンに一言お願いします!

新潟へ行くのは初めてなのでライヴはもちろんのこと、食事や様々な新潟のアー ティストとの出会いを楽しみにしています。特に今回の会場は建築好きの自分と してはかなりワクワクさせられるロケーションなのでそれも楽しみの一つです。



INTERVIEW in January 2016
TEXT by Masato Hoshino